第4回演奏会 – 曲目解説

ストラヴィンスキー プルチネルラ組曲

バレエ音楽「プルチネルラ」は、ストラヴィンスキーが1919年~20年にかけてバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の主催者ディアギレフの依頼により作曲したものです。
火の鳥、ペトルーシュカ、春の祭典の発表で大きく名を馳せていたストラヴィンスキーに加え、パリ・オペラ座での初演に際しては、衣装・舞台デザインを担当したパブロ・ピカソを始め、時代を代表する才能が結集して舞台が作り上げられました。

主役は18世紀イタリアの仮面喜劇(コンメディア・デッラルテ)の登場人物であるプルチネルラ、曲想は図書館から発掘した当時の作曲家達(主にペルゴレージ)の遺したものを用い、バロック時代の合奏協奏曲(コンチェルト・グロッソ)を思わせる小編成(打楽器、ハープはおろか、クラリネットもなし)で、シンプルで親しみ易い雰囲気に仕上がっています。

「春の祭典」で一大センセーションを巻き起こし、時代の先鋭を走ってきたストラヴィンスキーが、まるで「ガラリと芸風を変えた」かのような印象を受ける作風。一見するとそのように見えますが…
しかしてその実態は「古典を題材にした前衛芸術」と言うべきもので、和声やリズムなどについてはこの時代にマッチした「実にストラヴィンスキーらしい」内容となっています。
新旧の要素が違和感なく絶妙なバランスで融合され、まさに「温故知新」を体現した作品と言えるでしょう。
本作を皮切りに彼は暫くの間「新古典主義」と呼ばれる曲を次々と発表します。

尚、ディアギレフが依頼したのは「ハープ付大編成の曲を」でしたので、この出来上がりには随分と驚かされ、ピカソは大いに刺激を受けて衣装・舞台装飾を曲のイメージに合うように全て作り直したとか…

管弦楽曲としてのプルチネルラは幾つかのバリエーションがありますが、本日演奏するのは1949年版であり、演奏される機会が比較的多いものになります。
唄パートを廃し、全体のバランスを維持しつつも編成・構成ともに極限までシンプルに絞り込んだ1949年版は、プルチネルラの持つ魅力が凝縮され、最も端的に伝わってくる珠玉の名作です。

1. Sinfonia(序曲)

2. Serenata
バレエ版では愛の告白場面の夜曲。原曲はペルゴレージが作曲した歌劇の歌曲。

3. Scherzino-Allegro-Andantino
スケルツィーノとは“こっけいに”の意味。前曲での告白が失敗したことをからかっている。原曲は18世紀イタリアの作曲家ガッロのソナタから。

4. Tarantella
ナポリの舞曲タランテラ。ソロ群とオケの激しい掛け合いが疾走感を演出する。

5. Toccata
細かい音型を伴う即興的な楽曲トッカータ。鍵盤楽器の曲が主だが、本曲では管楽器群が楽し気にその雰囲気を演出する。

6. Gavotta con due variazioni
木管楽器を中心とした変奏曲。後半のファゴットにご注目♪

7. Vivo
トロンボーンとコントラバスの掛け合いが魅力の、コミカルな楽曲。

8. Minuetto-Finale
メヌエットはバレエ版における結婚の踊りの場面。原曲はペルゴレージ作曲歌劇「妹に恋した兄」から。
華やかなトランペットに導かれ曲はフィナーレを迎える。

【バレエ「プルチネルラ」のストーリー】
どんな女性も惹きつける色男プルチネルラ。
男性の嫉妬を買って殺されそうになるも、身代わりを使って危うく難を逃れます。
最後には村の娘ピンピネルラと結ばれてメデタシメデタシ…と言うストーリーです。

古典喜劇におけるプルチネルラのキャラクターは「猫背で騙されやすい男の役割」でピエロの起源とも言われていますが、ここでも随分と思い切ったイメージチェンジが採用されております。

(茶蘭歩欄=某Vn弾き)


ハイドン トランペット協奏曲

ハイドンが残した唯一のトランペット協奏曲である本作は、彼の長年の友人であり、トランペット奏者であったアントン・ヴァイディンガーの為に1796年に作曲された。ハイドンにとって最後の協奏曲である。(ちなみに、私と誕生日が同じ。3月31日。)

これまでのトランペットは、いわゆるナチュラルトランペットと呼ばれるものが主流で、唇と息の圧力の変化で自然倍音を演奏することが精一杯の、不安定な楽器だった。
これに、現在の木管楽器のようなキーを取り付け、すべての音域で半音階を演奏可能としたのが、ヴァイディンガーが発明したキートランペットである。(有鍵トランペットとも呼ばれる)
初演は1800年3月28日にウィーンのブルク劇場にて行われたが、穴を空けることにより音色が損なわれるキートランペットは不評であった。その後長い間忘れ去られ、楽譜の出版に至ったのは1929年のことだった。
現在のヴァルブ式トランペットが開発されてからは、トランペット奏者の重要なレパートリーとなっており、コンサートはもちろん、コンクールでも頻繁に取り上げられている。

曲は3楽章から成り、
第1楽章:アレグロ
トランペットソロのテーマが、早速自然倍音列から外れた旋律を奏でる。また半音進行が様々な形で現れ、キートランペットの持ち味を最大限に活かした作品であることを強く印象づける。

第2楽章:アンダンテ
ハイドンが得意とする緩叙楽章。ゆったりとした6/8拍子の楽曲で、カンタービレ(歌うように)の指示がある。
明るく華やかな印象のあるトランペットだが、この楽章では叙情的な旋律に終始する。

第3楽章:ロンド・フィナーレ
弦楽器の急速な前奏から、トランペットが主題を受け継ぎ、矢継ぎ早に技巧的なパッセージが現れる。
全曲を締め括るに相応しい、華やかな楽章である。

(閏間健太)


ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」

フラット・フィルハーモニーはその第4回演奏会で – まだ4回目だというのに – 「田園」に手を出してしまった。大変な冒険をしたものだ。曲はあまりにも素晴らしく、それ故にお客さんの多くがこの曲を良く知っている。ところがこの名曲は例えば同じことの繰り返しが多いため演奏次第では皆さんが退屈してしまうことになったり、スヤスヤとお休み頂くことになってしまいかねない。本来は皆さんに心から感動してもらえるはずであり、そういう演奏でなければならないのに! この曲を心から愛する聴衆の皆さんが「知ってる曲と何か違う」「俺の好きな田園をこんなことにしやがって」と思わないことを心から願いながら、そして皆さんに改めてこの曲をより一層好きになってもらえる演奏をしよう。

さて、既に耳があまり聞こえなくなっていたベートーヴェンが自身の社会性を後退させていく一方で、自然の中での解放感・自然への回帰感に導かれたように作曲されたこの曲は、作曲者自身により「田園」という副題を与えられ、さらに楽章ごとに標題も付されている。

第1楽章 ​田舎に着いた時の愉快な気分
第2楽章​ 小川のほとりで
第3楽章​ 村人の楽しい集い
第4楽章​ 雷と嵐
第5楽章​ 嵐の後の喜びと感謝

これら標題の風景を想像しながらこの曲を聴くと、本当にその光景・風景が目に浮かぶようである。しかし作曲者は「この曲は自然や自然と人間の交わりを絵画的に描写したのではなく、人間が自然から受けた印象や感情を表現したのだ」と述べていた。それはこの曲の白眉である第5楽章ではっきり表現されている。どちらかと言えば風景絵画的な描写とも見える4つの楽章を経て、第5楽章の主題が最初にヴァイオリンで演奏された時に誰もが感じる言葉では言い表せないあの気持ち – 人間が自然の中で自然に対して持つ感情としての感謝・喜び・希望 – これら全てがとめどなく溢れ出て止まらなくなってしまう。そう、この第5楽章のためにそれまでの4つの楽章が用意されているのだ。終曲に向けて高揚を繰り返し感動的な頂点を過ぎた後、私たちは幸福感に満たされたまま人間の壮大なドラマを体験したことに気付く。

本日の田園、ぜひ自然の描写ではなく人間の心の旅をお楽しみ下さい。

(福永哲朗)

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